令和5年度数理物質科学研究群・研究科学位記授与式を行いました
2024.03.25
令和6年3月25日、数理物質科学研究科・数理物質科学研究群では、学位記授与式を執り行いました。
博士後期課程は初貝研究群/研究科長、学位プログラム・サブプログラムリーダー/専攻長出席のもと、1H101にて行ないました。
博士前期課程は各プログラムごとに学位プログラム・サブプログラムリーダー/専攻長出席のもと、行ないました。
学位を授与された皆様のますますのご活躍をお祈り申し上げます。
(1H101で行われた博士後期課程の学位記授与式の様子)
【式辞】
本日、筑波大学から博士の学位を授与された皆さん、大変おめでとうございます。入学以来日々の研鑽を重ね、本日の学位授与にいたるまでの努力の結果、学位取得に至ったこと真に喜ばしく、教職員を代表しまして心よりお祝い申し上げます。
皆さんの研究生活のこの3年間は,コロナウイルス感染症が世界に蔓延し、研究生活も厳しく制限された活動のみしか行えない時期と重なり、やっとこの1年で対面の活動も再開できるようになったわけで、極めて特殊な時期であったといえます。学生の皆さんのみならず教員にとっても、今までに全く経験したことのない困難をともなう大学院生活、研究生活であり、研究を継続するためにはいろいろな工夫が必要であったことを振り返りますと、本日無事学位の授与にいたることができたこと、皆様にとっての喜びはひとしおであろうと思います。
その一方でこの困難な時期は、現代科学の恩恵を強く感じた時期でもありました。このコロナ禍における研究活動を経験して、我々教員と皆さんは、オンラインの活動の重要性を強く感じていることと思います。いうまでもなくこのオンライン活動はインターネットはじめ現代科学に基づく技術革新の成果であり、これもまた科学の大きな成果であるワクチン開発の成功を含めて、現代科学の成果なくして今日の学位記授与式に至ることは、およそ不可能であったか、もしくはより大きな困難があったことは想像に難くありません。
ニュートン以来の近代科学における研究活動は、究極的には極めて個人的なものに帰着します。ニュートンのアイデアやガリレオの天体観測などを思い起こせば、その最初のアイデアはある個人の頭のなかで生まれたものであるはずですし、例え大きな研究グループによる研究成果であっても、新しい事実の発見に関しては、誰かある個人が、世界ではじめてそれを見たわけです。本日、博士の学位を授与された皆さんは、学位につながった研究活動の中で必ずやこのような個人的な体験をしていることと思います。これが科学の発見の出発点です。ただし研究としてはこの個人的な体験だけでは不十分であって、その極めて個人的な体験を論理的に主張できるものとして、裏付けをとり、論文で世界に周知することで、広く社会のもの、他者からアクセスできるものとすることが必要です。これが「知の創造」であって、皆さんが学位論文としてまとめたものは、そのすべての論文が、この知の創造であって人類が積み上げてきた知の総体に新しい一ページを付け加えたものであるはずです。本日の学位取得にいたる皆さんの研究成果、知の創造は、真にすばらしく、心より賞賛したいと思います。
今日皆さんが取得された博士の学位は、決して大学や国立の研究機関などいわゆるアカデミアを目指すためだけのものではありません。知の創造に貢献した経験を持つ個人、独立した知識人としての証です。事実とそうでないものを、他の影響を排除し、独立した個人として自分ひとりで判断できることが知識人の条件です。皆さんは大学院での研究活動のなかで、この知識人としての活動を実践し博士論文としてまとめることにより、知識人たることを証明し世界に広く周知したわけです。皆さんが、今後進まれる分野は、必ずしも博士課程での専門に限らず、極めて多様だと思いますが、如何なる分野においても独立した知識人として、自信をもって活躍して行かれることを希望します。また、皆さんは、必ずやその分野で活躍されるだけの基礎力をもつ人材であることを教職員一同確信しています。
現在の技術革新の驚きのひとつに、小説など長文の文章や芸術的な画像など今まで人間でなければ生み出せないと考えられてきたものを、大規模な機械学習にもとづき生成する人工知能の実現があります。このような革新的技術を誰でも容易に試せる時代が既に現実となっています。今後の社会においても、この生成AIの例に限らず、我々の予想を越えた科学技術の発展、社会展開が確実におきると予想されます。現在予想できない、もしくは予想をこえるような新しい時代に適応し、新しい科学、社会、文化を作って行く人材こそが、独立した高度知識人である博士取得者の皆さんであるはずです。
コロナ蔓延により世界が個人的な世界に引きこもった状況にあってもオンラインでおよそ多くの活動が行えることになったことは、確かに新たな発見では、ありましたが、逆に、対面の活動でなければ得られないものを再認識することにもなりました。世界各地で行われている国際会議やワークショップでも、オンライン開催されれば、どこからでも参加できたのは、驚くべき技術革新ですが、コーヒーブレークなどの際に立ち話でなされてきた研究の裏話やインフォーマルな意見交換の機会が皆さんには余りなかったことはとても残念です。この閉じこもった期間を過ごしたこともあってか、現在世界を見渡せば、至るところで、自分中心の言動が拡がり、すべてが、ややもすると内向きとなりがちですが、皆さんには、今後は、少し努力してでも人と人が直接会って話合う対面の活動を大事にしていただきたいと希望します。独立した人々の直接の交流、相互作用、そこにこそ生成AIにはできない、人間にしか生み出すことができない、予想外の発見、意外な展開があるはずです。プロンプトなしにゼロから有限を生み出す自由な発想が知識人足る皆さんの活動には求められています。
我々教員一同、本日学位取得された皆さんは今後の社会を改革していく高度知識人として、本学の名を高めてくれるものと自負しています。その一方で皆さんには、社会の期待に応え、後輩の範として本学の名を高め、博士課程で身につけた基礎の上で社会に貢献し、新しい世界を切り開いてゆかれることを強く期待しています。
本日は博士の学位取得、まことにおめでとうございました。
以上をもって私の式辞といたします。
令和6年3月25日
筑波大学大学院 理工情報生命学術院
数理物質科学研究群長・研究科長
初貝安弘